就労支援に係る研究・開発、普及

就労にともなう健康状態の変化を研究しています。
特に就労と女性特有の疾患との関係や夜間労働が女性の内分泌環境に及ぼす影響などを中心に検討をしています。

研究について

研究の目的

少子化に伴う労働力の減少に対して、また男女共同参画社会の実現に向かって、女性の社会進出が推進・応援されている中で、その進出を阻害する要因として育児に対する負担や健康・体力の自信の無さなどが挙げられている。事実、厚生労働省の性別・年齢別の受療率をみると、外来ではほとんどの年齢で男性に比較して女性がより高率に受診していることからも、女性は男性に比較して健康に自信がないことが窺える1)。また、就労女性は自分の健康管理よりも職場への配慮を優先する傾向にあり、就労女性の健康管理には病院を受診しやすい雰囲気や、復職時の受け入れられやすい環境を職場が作り出すことが重要と考えられている2)。

なお、平成28年の「働く女性の健康増進調査」では婦人科疾患を抱える女性の年間の医療費支出と生産性損失を合計すると、6.37兆円の損失と算出されている3)。日本医療政策機構は女性の雇用と健康問題を解決するには、「女性自身への健康教育の推進」や「職場における健康サポートの強化」が重要と提案している1)。さらに、「女性の健康」を踏まえた健康経営の実施を企業に求めている3)。

実際には、令和1年の統計調査では女性の労働力人口は2,992万人(男性の労働力人口は3,733万人、全労働人口に対する女性の比率は43.3%で)、そのうち15歳から64歳までの年齢層では2,630万人であり、この年齢層が女性の労働力人口の87.9%(2,630/2,992万人)を占めている。また、この数年間15〜24歳、25〜34歳の女性の就業率の上昇が顕著だと報告されている(労働力調査令和1年平均、令和2年1月31日総務省統計局)ことからも、女性労働力のほとんどは15歳以上で64歳以下の女性が占めている。

ところで、この年齢層の女性には女性特有の疾患が好発することから、女性特有の疾患は就労女性の働く状況に大きく影響を及ぼすこととなる。また、病気の発症やメカニズムには、男女で大きな差があり、男性に多く見られる疾患は(痛風、気胸、メタボリッック症候群)などであり、一方,女性に多く見られる疾患は(SLE、鉄欠乏性貧血、白内障、骨粗鬆症)などである。また、動脈硬化では、男性では既に20代から動脈硬化が確実に進んでいるのに対して,女性では女性ホルモンが動脈硬化の進展を抑制していることから喫煙や糖尿病などのリスクを抱えていない限り、閉経前に動脈硬化を来すことはない。

以上を総合すると、女性が働くためには女性と男性の性差に基づいた健康管理が必要であり、就労に伴う女性特有の変化を正しく観察・理解することが重要と考える。

1)「女性の雇用と健康政策」研究会:「女性の雇用と健康政策」第2版 東京 特定非営利活動法人日本医療政策機構 2005年 日本医療政策機構政策提言シリーズvol.2
2)宮内文久、大角尚子、香川秀之ら:子宮筋腫より見えてきた就労の影響 日本職業・災害医学会会誌. 66(2): 129-136. 2017
3)「働く女性の健康増進調査」調査チーム:「働く女性の健康増進調査」 東京 特定非営利活動法人日本医療政策機構 2016年